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長井短エッセイ『1×1』

人肌に近いやわらかさが魅力のコンドーム「SKYN」。そのやわらかさで、カップルが素直な気持ちを伝え合い、お互いありのままの姿で愛し合える「やわらかい関係」を築くお手伝いができればという想いがあります。

今回は俳優・エッセイストの長井短さんが、「SKYN」が掲げる「やわらかい関係」や、この夏の「SKYN」のテーマ「相性」をお題にエッセイを書き下ろし。

かわいらしい高校時代のハプニングエピソードから、さまざまな出会いと別れを繰り返して見えた“片栗粉最強説(!?)”まで綴られています。好きな人の顔を浮かべてしまう、やさしくあたたかな一編をどうぞ。

高校生の頃、男の子とカフェに出かけた時だった。彼は年上で、私を好いてくれていた。その眼差しに気づきながらも「お前って面白いな!」「腹減った〜!」など、あのワンパクな海賊漫画の主人公・ルフィを降臨させることでのらりくらりと気持ちをかわしながら。

その日はたぶん、実際に『ONE PIECE』の話をしたんだろう。紙ナプキンに絵を描こうと筆箱からペンを取り出した時、彼の様子が変わった。明らかに目が泳いで、口数が減っていた。不思議に思いながらも、放置して絵を描く、描く、描く。
「ごめん、ちょっと無視できない!」彼の焦った声が私の手を止めた。なんだろうと思い目を見ると、気まずそうに視線を逸らした後、小さな声で彼は言った。

コンドーム、入れてるの?

寝耳に水とはまさにこのこと、何を言ってるのかわからない私は即フリーズ。彼の震える指先はゆっくり筆箱に伸びて、ペンに埋もれる銀色の小袋に触れる。

あ、それ、葛根湯です。

「なんだよー!」と彼は笑った。私も「いやこれ、どう見てもコンドームだわ」と笑った。「みんなに誤解されてない?」「コンドーム筆箱に入れてる女子って思われてるかな?」当時クラスでちょっと浮いていた私は、そんな勘違いをされたら取り返しがつかないと思ってすぐに葛根湯を財布にしまった。「いや、もっとコンドームになっちゃってるよ!?」って彼のツッコミを待っていると、一言一句違わないツッコミが追いかけてきて、もっと笑いながらリュックの内ポケットに、今度こそ、しっかりしまった。

夕暮れ時の吉祥寺、ムードはぶち壊しである。だけど私は「こいつ、なんかいいなぁ」と思った。ぼんやり彼を見つめていると「まぁコンドームでもいいんだけどね。筆箱は意味わかんないけど」と言ってまた笑った。さっきまで焦ってたくせに、コンドームを筆箱に入れててもいいと言う。柔軟な人だなと思って、それから彼を好きになるまで、そう時間はかからなかった。

彼とは数年で別れた。その後にお付き合いした別の彼氏とも別れたし、いろんな人と付き合っては別れて今日まで生きてきた。誰のことも嫌いになってはいないけれど、“別れる”って決断をしてきた。「価値観の違い」というほど大袈裟な理由ではなく、かといって「マンネリ」というほど単純な理由でもない。別れの数だけ理由はあるけど、その全てに当てはまることがひとつだけある。
心が硬くなっちゃったのだ。

「芯を持て」とか「軸をぶらすな」とか言うけれど、その硬さは時々牙を剥く。自分を支える強靭な背骨は、時として寛容さを遠ざけてしまうから。許せることが許せなくなって、自分より相手の形を変えたくなる。「筆箱にコンドーム…!?」から「筆箱にコンドームでもいい」に変わった、彼のあのやわらかさは、ふたりの間に距離があったからこそ生まれたやわらかさだったんだと今になって気づく。それなら私たち、どうやって一緒にいればいいんだろう。

全く別の入れ物に入ったふたつの心が惹かれ合う時、精神的にも物理的にも距離は縮まる。

くっつきたくて分かり合いたくて、輪郭が分からなくなるまで相手に沈み込むこと。それはとてもロマンチックだ。だけど私たちは、どこまでもふたり。どうしたって、1+1でできている。どれだけ溶け合ったように見えても、1+1は1にならない。素材と素材をどれだけ煮詰めても新しい存在に変身はしないように、シーツの上で1に見えた私たちも、朝にはきちんと2に戻っているのだ。それは全然悲しいことじゃない、はず、なのに。どうして少し寂しいんだろう。1より2の方が寂しいなんて不思議だ。元来2だっていうのに。

ここで思い出してほしいのが、片栗粉の存在である。食材と食材をつなぎ、味と味の架け橋になってきた片栗粉。

その功績はあまりにも大きい。片栗粉の凄いところは、素材と素材をひとつに合体させようとするのではなく、あくまで分離したまま、お互いの形を保ったままの状態で「ひとつの集団」としてまとめ上げることだ。誰も溶け合うことなく、自分の輪郭を失わないまま「片栗粉」というとろみのなかに内包されることで、自分の姿のまま、無理せず一緒にいることができる。ひとつになろうと足し合うのではなく、むしろ独立した存在であることを認め合って掛け合わせることで1×1=1をやってのけているのだ。あまりにもピースフルな調味料。このまま片栗粉の素晴らしさを語りそうになるけど、いかんいかん。ここは片栗粉サイトではない。片栗粉のPRではないです。失礼しました。話をコンドームに戻します。

誰かと愛し合うことは一見、足し算のように見える。お互いの存在を、愛情を、凄い力で混ぜ合うという形をとっていれば、確かに足し算だ。
だけど本当に愛し合うって、そういうやり方だろうか。

私はもっと、やわらかい愛し合い方がいい。

お互いの形を変えようとしたり、ふたりでひとつみたいなやり方じゃなくって、それぞれぼんやり独立したまま並び立つ愛し方がいい。時々ふたりが触れ合った時、そこに火花が散って「あ、綺麗」と思うような。ふたりの言葉がぶつかりあって、思わず笑ってしまうような。そういう、1×1の愛し合い方がいい。

そのためには、やわらかい皮膚を、態度を、心を持つことが大切だ。他者の1を、1のまま受け入れることは難しく、愛せば愛すほど違いに打ちのめされることもあるだろう。相手を作り替えたくなってしまう時もあるかもしれない。そんな時は、心に小さじ一杯の片栗粉。そのとろみは2つの1を2つのまま1つに包む。

もし、もっと物理的な片栗粉が必要なら、「SKYN」を手に取ってみればいい。

「SKYN」は私たちを、魔法みたいにひとつにしようとしたりはしない。溶け合うような幻を見せようともしない。ただ、ここに私とあなたがいる。その事実をやわらかく包んでくれるだけだ。

目の前に、どうしたって私とは圧倒的に違う生き物がいること。その生き物が、私を愛していると言ってくれていること。それらは全て、ひとつになったら知り得ないことだ。ふたつだから感じることだ。私とあなたの1対1。そこを繋ぐ「SKYN」は+ではなく×。だから私たちは、新しい形の1でいられる。

心に片栗粉、ボディに「SKYN」。
存在を繋ぐとろみのなかで、ずっとふたり揺蕩っていられますように。

イラスト:矢野恵司

プロフィール

長井短

1993年生まれ、東京都出身。舞台、テレビ、映画、モデル、執筆業と幅広く活躍する。主な作品としてドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に□された』『ケンジとケイジ、ときどきハイジ』『星降る夜に』舞台 玉田企画『영(ヨン)』『室温〜夜の音楽〜』、映画『赤羽骨子のボディガード』『もしも徳川家康が総理大臣になったら』『PERFECT DAYS』ラジオ『ボックス席の深夜2時〜長井短とxiangyuのラフに深まるクリエイションの時間』、『MOTION GALLERY CROSSING』などがある。また著書『私は元気がありません』、『内緒にしといて』を出版。7月16日に河出書房新社より、小説集『ほどける骨折り球子』を出版。

SKYN PREMIUM

素肌のようなやわらかさ。SKYNは、従来のコン
ドームとは異なり、

はるかにやわらかい「iR素
材」で作られています。

天然ゴムアレルギーフ
リーで、どなたでも安心して使用できます。